20250518日曜午前礼拝

聖書：使徒の働き13：1-3

題目：みんな違っていい

讃美：68、521、528

説教者：高曜翰　副牧師

“さて、アンテオケにある教会には、バルナバ、ニゲルと呼ばれるシメオン、クレネ人ルキオ、領主ヘロデの乳兄弟マナエン、およびサウロなどの預言者や教師がいた。 一同が主に礼拝をささげ、断食をしていると、聖霊が「さあ、バルナバとサウロとを、わたしのために聖別して、彼らに授けておいた仕事に当らせなさい」と告げた。 そこで一同は、断食と祈とをして、手をふたりの上においた後、出発させた。”

‭‭使徒行伝‬ ‭13‬:‭1‬-‭3‬ 口語訳‬

1。一人一人が異なる存在

　私たち人間は、一見似ていても一人一人異なる存在です。指紋、声、虹彩、耳の形、心臓の動きなど、遺伝と環境によって異なる個性が形作られます。これは生体認証にも利用されている事実であり、同じように見えても、私たちは皆唯一無二の存在です。たとえクローン技術で同じ遺伝子を持つ人間を作ったとしても、その環境が異なれば全く同じ存在にはなり得ません。このように神は私たち一人一人を独自の存在として作り、それぞれに目的と使命を与えてくださっています。

2。アンテオケ教会の多様なリーダーたち

　使徒の働き13章には、アンテオケ教会の多様なリーダーたちが登場します。彼らは異なる背景と経験を持ちながら、共に神の働きに仕える者たちでした。

　バルナバはキプロス出身のレビ人です。本名はヨセフですが、「慰めの子」という意味の「バルナバ」と呼ばれていました。彼は土地を売って教会に献金し（使徒4章）、回心したサウロを使徒たちに紹介した人物です（使徒9章）。

　シメオンは肌が黒かったため「ニゲル」と呼ばれました。アフリカ出身の外国人であった可能性があります。

　ルシウスは北アフリカのクレネ出身のギリシャ語を話すユダヤ人です。

　マナエンはヘロデ・アンティパスの幼なじみであり、上流階級出身です。宮廷で育った裕福な人物で、世俗的な力を捨ててキリストに従った人物です。

　サウロ（後のパウロ）はタルソ出身のユダヤ人で、生まれながらにローマ市民権を持つエリートです。厳格な律法教育を受けたパリサイ派であり、初期にはキリスト教徒に対する激しい迫害者でしたが、回心して熱心な宣教者となりました（使徒9章）。

　アンテオケ教会は、このように異なる背景を持つリーダーたちが共に働く場でした。彼らは出身や地位に関係なく、同じ信仰によって結ばれ、神の使命に応えました。これは、教会が人間の基準でなく、神の目に見た真の価値に基づく共同体であることを示しています。

3。聖霊の導きと一致

　アンテオケ教会は、礼拝と断食を通じて神の導きを求めました。断食は、神に集中し、霊的に備えるための重要な行為であり、特に重大な決断を前に行われるものでした。この時、聖霊が「バルナバとサウロをわたしのために聖別し、彼らに授けておいた仕事に当たらせなさい」と語りかけました。ここで、教会は聖霊の明確な指示に従い、バルナバとサウロを異邦人への宣教に送り出す決断をします。教会は再び断食と祈りを行い、二人に手を置いて送り出しました。手を置くことは、神の力と導きを願う象徴的な行為であり、二人が神の使命に忠実に生きることを教会全体で確認する意味がありました。彼らは単に組織的なリーダーではなく、神の霊によって選ばれ、解放された宣教者だったのです。

4。多様性を認めよう

　まず、教会は多様性があふれる共同体だということを忘れないようにしましょう。

“そして彼は、ある人を使徒とし、ある人を預言者とし、ある人を伝道者とし、ある人を牧師、教師として、お立てになった。”

‭‭エペソ人への手紙‬ ‭4‬:‭11‬ 口語訳‬

　パウロの言葉から、神様が様々な異なる力を人々に与えたことがわかります。アンテオケ教会にも、人助けを良くするバルナバ、肌の黒いシメオン、北アフリカ出身のルシウス、上流階級出身のマナエン、パリサイ派出身のサウロという異なる背景を持つ人々がリーダーを務めていました。様々な人が、他人との違いを恐れることなく、一緒に働くことのできる場所が教会です。

　私たちは、能力や成果を基準にして評価し、人を選びます。しかし、それは神の視点ではありません。例えば、2tトラックと5tトラックがあります。2tトラックは5tトラックよりも少ない荷物しか運べません。だからと言って2tトラックの方が劣っているとは言えません。なぜなら2tトラックの方が小回りが利きやすく、狭い道でも通りやすくなるなどの特徴があるからです。どちらにも違った良い部分があるのです。人の場合も同じです。人は優劣を付けたがりますが、大変危険な行為です。どんな人にもそれぞれに与えられた良い部分があります。どんな人にも価値があり、どんな人も神の計画において必要な役割を果たすことができます。神様の前では全ての人が役割を持った大切な存在なのです。

　そのため、私たちは決して、人を否定してはいけません。

“それは、聖徒たちをととのえて奉仕のわざをさせ、キリストのからだを建てさせ、”

‭‭エペソ人への手紙‬ ‭4‬:‭12‬ 口語訳‬

　パウロは、異なる人々が集まるのは、聖徒たちを整えて奉仕の仕事をさせるためだと言っています。怠惰な人を教え、小心者を励まし、弱者を助け、全ての人に寛容でありなさいと言いました(1テサロニケ5:14)。自分に優れた部分があると考えるのなら、それは自慢したり、相手を攻撃するために与えられたのではありません。むしろ、劣っている人たちを助けるために優れた部分を神様が与えたのです。努力不足をもって相手を批判することがありますが、努力できるかどうかというのも、半分は遺伝の影響であることが科学で示されています。つまり、私たちは自分の努力の成果だと自慢したり、他人を非難することは簡単にはできないということです。

　将棋の藤井聡太さんは、小学校4年生の授業中に「5分でわかることを45分もかけて教えるのは無駄だ」と発言したことがあるそうです。しかし、その時の教師は「5分でわかる人もいれば、2時間かかる人もいる。先生たちはその時によって基準を変えているんだよ」と教えました。藤井聡太さんはこの時、偉そうにしたり、人を馬鹿にしたりせず、そのまま理解して受け入れたそうです。私たちも、他人をあれこれ直そうとするのではなく、ありのままを受け入れ、手助けできる存在になることが大切です。

5。そして、私たちは聖霊の導きに従う存在として一致しましょう。

“わたしたちすべての者が、神の子を信じる信仰の一致と彼を知る知識の一致とに到達し、全き人となり、ついに、キリストの満ちみちた徳の高さにまで至るためである。”

‭‭エペソ人への手紙‬ ‭4‬:‭13‬ 口語訳‬

　パウロは、一致することの重要性を述べています。多様性を尊重することは大切ですが、教会はキリストにあって一致すべきであることを教えています。アンテオケ教会はバルナバとパウロを宣教師として送り出すために、断食を2回しています。何故これほどまでに神様に集中する時間を取るのでしょうか？それは、人の考えを聞いて人の思いに振り回されず、聖霊の導きを聞いて神様の思いに従うためです。教会に必要なのは、優れたリーダーシップやカリスマ性を持った1人の指導者ではありません。聖霊の導きを常に求め、最優先にして生きるキリスト者たちです。

　また、使徒の働き15章では、エルサレム会議が開かれ、異邦人が割礼を受ける必要があるかどうかについての重要な議論が行われました。最終的に、異邦人に割礼や律法を強要してはならないとし、また、異邦人も偶像に捧げた食物や血と血抜きしていない食物を食べてはならないという決まりを作りました。これは異邦人とユダヤ人がお互いを配慮し合て考えた結果です。しかし、重要なのはこの発表をしたヤコブは、聖霊とともに決定したと述べています。つまり、ここでも人間的な知恵ではなく、聖霊の一致を求める人々によって、神様に喜ばれる結論を下すことができたのです。

6。結論

　私たちは、一人一人が神によって異なるように目的を持って創られました。誰かは成功作であり、誰かは失敗作というわけではありません。他人と比較して自慢したり非難したりするのではなく、アンテオケ教会のように、多様な背景を持つ者たちが聖霊の導きを求め、一致して神の働きに従う姿勢が求められています。

“わたしにむかって『主よ、主よ』と言う者が、みな天国にはいるのではなく、ただ、天にいますわが父の御旨を行う者だけが、はいるのである。”

‭‭マタイによる福音書‬ ‭7‬:‭21‬ 口語訳‬ 

自分の思い通りではなく、神様の思い通りになる人々が教会に集まることができれば、その教会は聖霊の導きにおいて一致し、神の大きな計画の一部として生きることができます。私たちもアンテオケ教会のように、互いの違いを尊重しながら、聖霊の導きに従って歩む者となりましょう。